福祉のお仕事ぶっちゃけ座談会③理学療法士(PT/フィジカルセラピスト)篇
先輩・同僚インタビュー
編集部 2021.03.11
社会福祉業界のまだあまり知られていない職種の方に集まっていただき、お仕事のリアルについて語っていただく座談会シリーズ『福祉のお仕事ぶっちゃけ座談会』。
第3弾の今回は理学療法士(PT/フィジカルセラピスト)篇です。
施設や在宅でのリハビリを通して、高齢者や障がい者の方がたの機能を回復させるスペシャリスト、理学療法士(PT)の3人にオンラインでお話をうかがいました。
ほっちゃん 愛知県 社会福祉法人ひまわり福祉会(写真左)
濱田まどかさん 富山県 社会福祉法人海望福祉会(写真右)
木原勇太さん 山口県 社会福祉法人ひとつの会 (写真左)
聞き手:山田英治編集長(写真右)
施設で活躍する理学療法士(PT)の仕事とは?
編集長:では最初に自己紹介をお願いします。
木原さん:木原勇太と申します。25歳です。ご高齢者に施設内で過ごしてもらうデイサービスセンターと訪問看護ステーションでの仕事を兼務しています。デイサービスセンターの方では機能訓練を担当し、ご自宅での暮らしを維持していくための身体機能のトレーニングを提供しています。また、Jリーグのレノファ山口と連携して健康元気体操を制作し、健康増進のイベントを企画・実践しています。理学療法士の専門性を活かして地域に貢献したいと考え、いろいろと挑戦しています。
ほっちゃん:ほっちゃんです。これは、小学生の頃からついているあだ名です。現在、44歳なんですが(笑)。もともと、介護職員として働いていましたが、理学療法士に興味をもって、学校に入り直して資格をとり、施設で暮らす障がい者を対象にリハビリを担当しています。リハビリ内容は主に「生活リハビリ」で、着替えや、入浴、食事等ですね。生活のなかでひとりでは難しいところを手助けし、自分でできるように支援しています。
濱田さん:私は濱田まどかといいます。33歳です。社会福祉法人海望福祉会で働いています。“海を望む福祉会”と書く法人名のとおり、目の前がオーシャンビューな特別養護老人ホームです。特別養護老人ホームは、高齢者が終の棲家として、人生の最終の段階を過ごすため、籍も移した形で住んでいる場所です。入所者は全員で80名で、私のほかにもう一人男性職員の理学療法士がいて、二人で担当を分けてリハビリを担当しています。
編集長:施設内では、理学療法士のことをPTと呼ぶのが一般的なんですね。Pは、フィジカル(Physical:身体的)のPで、Tはセラピスト(Therapist:療法士)のTですよね。それでは、理学療法士(PT)は、具体的にどのようなお仕事をしているのですか?
濱田さん:ケアの中心になるのは介護職員ですが、利用者さんの身体の状態が悪くなってしまったときや、新しい利用者さんが入所されたときに、「車いすからベッドの乗り移りのやり方をどうしようか?」と相談されます。そうしたことは理学療法士のほうが専門的な知識をもっているので、立ち上がり具合や、足の筋肉がどれくらいあるか、などを評価させていただき、「これくらい立てるから、こういう乗り移りのやり方でお願いします」と、みなさんに申し送りをして、実際に現場に落とし込むという業務になります。
編集長:必要なときに理学療法士(PT)が呼ばれるんですね。それ以外ではどんなことをされているのですか?
濱田さん:基本的に一日で10人前後のご利用者の個別のリハビリを担当します。高齢者のリハビリですので、病院のように「毎日リハビリをして機能を回復させる」というより、「いまの身体機能をできるだけ維持すること」を目的にしています。「足の力を落とさないようにしましょう」と声をかけて、散歩がてら歩行訓練として、歩く練習や足踏みの運動などをしています。
「利用者さんの機能を回復させたい」思いがきっかけで・・
編集長:理学療法士(PT)になりたいと思ったきっかけはどんなことからでしょうか。ほっちゃんは先ほど、介護職員から理学療法士をめざしたというお話がありましたが、いかがですか?
ほっちゃん:私の勤めているところは、生まれてすぐから障害がある子どもたちが成人して生活するための施設です。もともとはそこで介護職員として働いていました。以前、リハビリの先生と一緒にご利用者のリハビリを体験させてもらったことがありました。その時にご利用者の状態がすごくよくなっていくのを目の前にして、興味をもつようになりました。そして学校で学び、資格を取って、病院で勤務した後に元の施設にPTとして戻ってきて働いているという流れです。
編集長:介護職員と理学療法士(PT)の違いは?
ほっちゃん:介護職員もすごくやりがいがあったのですが、ご利用者の身体機能が落ちていき、状態が悪くなっていって、できないことが増えていくなかで、このままでよいのかという疑問が出てきました。少しでもご利用者の方がたの力になりたいという想いがありまして、それが理学療法士につながりました。いまは、理学療法士をやりながら、介護の仕事もしているので、病院のリハビリとは違うかもしれません。生活のなかでサポートしているというイメージに近いですね。
編集長:濱田さんが理学療法士(PT)になったきっかけはどんなことですか?
濱田さん:私の母親が看護師をしていて、母の働く姿を見て医療系の仕事にすごく憧れをもっていました。母から、医療のなかには看護師以外の道もあるよ、リハビリの仕事もあるんだよ、と聞いて、いろいろ調べてみたんです。すると、身体機能を回復させる専門的な知識と技術を使い、人を元気にすることが出来る仕事としてPTがあることを知って興味をもち、この仕事に進みました。
編集長:福祉施設で働く理学療法士(PT)の一日ってどんな感じですか?
木原さん:私は、勤務が8時30分から17時30分なので、朝のデイサービスがはじまる前にリハビリで使う器具の準備や、送迎の確認をしてから送迎に出ます。そして、戻ってきて、10時前ぐらいからリハビリの訓練をはじめます。個別機能訓練計画書を作成して、それに準じてご利用者一人ひとりに対して訓練を提供しています。
編集長:休憩の時間はとれますか?
木原さん:休憩は12時から1時間ほどで、昼食をとります。午後は30分ほど訓練をして、午後1時半から集団体操がはじまります。集団体操は40~50人がフロアで立って30分ほどおこないます。午後2時からは介護職員がレクリエーションをするので、その間は訪問看護に行き、施設や在宅で暮らす方へのリハビリをします。3時45分くらいになるとご利用者が帰られるので、その送迎に出て、夕方5時前くらいには戻って掃除をします。その後、終礼があり5時半には退勤します。
編集長:規則的ですね。残業や夜勤についてはいかがでしょうか?
木原さん:残業はときどきあります。基本的には残業はしないのですが、勤務時間内に計画書がつくれなかったときなどは30分ないしは1時間、残業しています。夜勤については、以前は宿直をやっていましたが、いまはしてないですね。
自分の体力キープも必要!
編集長:定時に帰れるんですね。理学療法士(PT)のお仕事は、体力や技術面で大変なイメージがありますが、どんなご苦労がありますか?
ほっちゃん:ささいなことですが、事前にリハビリの時間は10時ですよと伝えてあり、10時にお部屋にいくと、利用者さんが家事などをしていてご本人の準備ができていないことがあって。準備を待っていると、リハビリの時間がなくなってしまい、怒り出してしまうことがあります。そんなときにどういう風に接していけばよいのか?はいつも悩んでいます。
編集長:なるほど。こちらが正論を言ったとしても難しい場合がありますよね。木原さんはいかがですか。
木原さん:いろいろありますが、ご利用者一人ひとりに対して訓練計画をつくるのが一番大切で大変な仕事です。PDCA(Plan→Do→Check→Action)を踏まえながら、一人ひとりに本当に適した訓練内容を考えています。
また、入浴介助に入ることもあり、自分の体力をキープしなければいけないなと感じることがあります。要介護度が高い人ですと、入浴介助は2人がかりですることもあります。入浴介助は介護職員が主に担当しますが、私の働くデイサービスでは男性の入浴介助には男性職員が入ることを基本にしており、理学療法士が入浴介助をすることもあります。入浴介助の場面に理学療法士が入るということは、専門的な目で入浴動作を確認でき、課題抽出の場ともなり、その後のリハビリ計画の見直しの材料となります。その結果、日常生活動作の向上につながり、快適に入浴できることで、生活の質の向上につながるのではないかとも考えます。
濱田さん:私の場合は、3年前に出産して体力が落ちたことですね。1年間育休をいただいて、その間体力づくりもしていたつもりですが、育児に追われていた部分もあり、いざ仕事に復帰したときに出産前の体力に完全に戻っていませんでした。勤務時間も時短の制度を使わせてもらいましたが、それでも疲労度が以前と違っていて、女性は出産、育児による変化が大きいことを実感しました。
リハビリ先生のおかげで、歩けるようになった!
編集長:ご自身の体力のキープが必要なお仕事ですよね。そうしたご苦労のなか、理学療法士(PT)ならではの喜びや醍醐味はありますか?
木原さん:一番やりがいを感じたのは、最初は歩けず立ったり座ったりがやっとだった方が、地道な訓練を繰り返して歩けるようになったときです。
ほっちゃん:私の場合も、トイレに立ったときに膝が折れて転ぶという方がいらっしゃったのですが、転ばない動きを一緒に考えようと、訓練も一緒にやって力をつけながら、安全に移動することに取り組みました。その結果、安全な動きができるようになり、福祉の全国大会で発表したんです。ご家族にも発表を聞いていただいて、「成果があってよかった。ありがとうございます」と感謝されたときは本当によかったなと思いました。
濱田さん:利用者さんで106歳の方がいて、私が育休から復帰したころに担当になりました。「106歳で、年だし、おうちに帰れるわけでもないし、歩けないから、みんなにお世話になるしかないの」といってご自分でも歩ける可能性を捨ててしまっていた方が、平行棒の手すりに掴まって、ひょこひょこと歩けるところまで回復したんです!!「リハビリ先生のおかげ。歩けるなんて自分でも思わなかった」と喜んでいました。ご家族の方も、その姿を見て「え?歩けるの?すごいじゃない」とすごく驚いて、遠く離れたお孫さんにもその映像を送って、ご家族のモチベーションアップにもつながったので、私もすごくうれしかったですね。
編集長:「リハビリ先生」って呼ばれているんですか?
濱田さん:はい、先生っていわれます。実は、リハビリではご利用者とお話しすることも大切なんです。お話しすることでその方のモチベーション向上につながってすごく活き活きされるんです。友達や孫とおしゃべりする感じなんでしょうね。身体の機能回復や維持だけではなくて、お話しすることで気持ちもあげて、それが身体の機能向上につながっていくことを実感しています。気持ちって大事だなぁ、と思います。
編集長:ほぉ、おしゃべりも身体機能の回復につながっていくんですね。ほっちゃん、いま、うなずいてましたが、どうですか?
ほっちゃん:本当にそう思います。私たちの仕事は、単純に身体ケアだけの仕事ではないんです。
濱田さん:認知症の方も、私の顔はたぶんリハビリ職員として認識していないかもしれないですが、ご家族の顔を見れば家族として認識しています。家で飼っている愛犬の名前を教えていただいたときは、「おうちのわんちゃんの○○ちゃん、元気ですか?」と声かけしたり、お孫さんの名前をぽんと出したりすると、笑顔になったり、表情が変わったりとすごくいい反応をしてくださるケースがあります。家族の力ってすごいなと思います。ご家族からの情報をヒントに、お話しする時の工夫をしています。
仕事もプライベートも充実
編集長:工夫の成果が出て素晴らしいですね。では、理学療法士(PT)のお給料や待遇はいかがですか?
木原さん:お給料は、生活していけるお金はいただいています。ボーナスも夏と冬で2回あります。福祉業界は給料が安いという話題が上がりますが、いま所属している法人では、働いているだけの給料をいただけていますので、不満はありません。むしろご利用者にリハビリ訓練を行うという自分のやりたい仕事ができているので、ありがたいことだなと感謝しています。だだ、医療現場での理学療法士と比較すると給料が低いというのは事実です。私は、福祉現場においての理学療法士の必要性を自分自身が実感しているので、それを可視化することで、報酬体系の見直し材料となるよう「福祉現場に理学療法士が必要なんだ!」と微力ながら訴えられるような働き方をめざしています。
ほっちゃん:僕も、全国の平均年収より、ちょっと少なめではあるんですけど、生活していけるだけ充分いただいていると思います。土日祝日休みで、年間休日だと122日くらいです。有給も自由に使えますし、すごく恵まれていると思います。私は4人家族で、子どもが男の子で9歳と6歳です。アフターファイブはキャンプが趣味なので、キャンプ用品を見に行ったりします。休日は海や山に、一年中キャンプに行って家族や仲間とワイワイやっています。
編集長:お子さんはちょうどキャンプが楽しい年代ですし、子育ても楽しそうですね。木原さんはアフターファイブはどんな感じですか?
木原さん:家に帰ったら、疲れているときはすぐ寝ていますね。テレビを見ながら、気づいたら寝ていることもあります。いまはコロナ禍で行けないですけど、休日は、ドライブなどに行って、気分転換しています。
濱田さん:私は正社員のフルタイムで、お給料は充分いただけています。理学療法士は国家資格なので特殊業務手当というか、リハビリ職の手当もあります。休みは暦通り、基本的に日曜日は休みで、平日は好きなところでお休みをもらいます。仕事が溜まっていなければ、だいたい定時で5時半から6時くらいには上がれます。夜勤もないのがすごくありがたく、子どもの生活に合わせてできる仕事なので助かっています。
チャレンジして克服できることが、すごく楽しい仕事
編集長:皆さん、お仕事とプライベートが両立できて充実していますね。では最後に、理学療法士(PT)をめざしたり関心がある学生さんたちに向けて、ひと言ずつメッセージをお願いします。
木原さん:福祉は誰かに代わって人を幸せにするという意味があります。その仕事はさまざまで、人の幸せとは何かとか、どのような状態が幸せなのかを考えながら仕事をしています。また、「この人に会えてよかった」と思ってもらえるように取り組んでいます。僕が意識しているのは、尊敬する方の言葉でもあるのですが、「できるか、できないか」ではなく「やるか、やらないか」なんです。それに対して成功してもいいし、失敗してもいい。成功したことは自分にとっての宝物、財産ですし、努力した結果です。でも失敗することも大事で、失敗したということは挑戦してきた証なので、それを僕は念頭においてやっていますね。ぜひ福祉に関心のある方と一緒に働けたらいいなと思います。
ほっちゃん:木原さんと同じで、チャレンジして克服できるということがすごく楽しい仕事です。例えば、機能は回復しない場合もありますが、先ほど説明したように、膝が折れる利用者さんは移乗の仕方や動き方を指導するだけでパッとできたりします。ちょっと工夫することで生活が充実する余地がたくさんある。そこをやるかやらないかで差が出てくるかなと思います。また、「失敗しても次がある!」と介護職員やご利用者と話しながらやっていますし、そういうスタンスが生活を充実させていき、信頼関係も築けます。とてもやりがいがある仕事なので、おすすめしたいです。
濱田さん:私は就職して1年目は、理学療法士としてお給料をもらう立場なのだと思うとすごく不安で、もう学生じゃないとプレッシャーを感じることがありました。ただ、一人ではなく、必ず周りに先輩やスタッフがいてくださいます。わからないことだらけなので些細なことでも相談すればいいと思います。悩まず、報告・連絡・相談ですね。大事なのは、いろんな方と話すことです。私は入職して、ご利用者やご家族の喜ぶ姿を見て、この仕事をしてよかったなと実感しているので、人の役に立ちたい、サポートしたいという気持ちがある方は向いていると思います。
編集長:みなさん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
対談を終えて・・・
理学療法士(PT)は、全員にあてはまる正解がないなかで、それぞれの利用者さんに寄り添い、その都度の状況に対応するなかで、生活の質をあげるための工夫のポイントを見つけていくお仕事だと感じました。利用者さんやご家族があきらめていても、理学療法士のリハビリを通して歩けるようになるなど、「失敗を恐れず、チャレンジする」姿勢が利用者さんの力にもつながっているんですね。素晴らしいポテンシャルをもったお仕事だと思いました。理学療法士のみなさん、ありがとうございました。