福祉のお仕事ぶっちゃけ座談会① コミュニティソーシャルワーカー(CSW)篇
先輩・同僚インタビュー
編集部 2021.01.04
社会福祉の世界には、さまざまな仕事があります。介護福祉士や保育士など比較的イメージしやすい仕事以外にも各分野のプロがかかわっている業界です。そんな社会福祉業界のまだあまり知られていない職種の方に集まっていただき、仕事のリアルを語っていただく座談会シリーズ、それが「福祉のお仕事ぶっちゃけ座談会」です。
その第1弾としてコミュニティソーシャルワーカー(CSW)のみなさんに集まっていただきました。
CSWの仕事は、地域のなかで困っている人たちを地域の人たちと共に支援する仕事です。たとえ支援が必要でも、スムーズに進むとは限らず、時間をかけた根気のいる戦いになることもしばしば。それでもこの仕事を続ける理由はどんなところにあるのでしょうか?実際にCSWとして社会福祉法人に勤める4人の方にオンラインでお話をうかがいました。(聞き手:山田英治 ひとりひとりが社会福祉HERO’S編集長)
茨城県の社会福祉法人ナザレ園 よこちゃん(左)茨城県の社会福祉法人ナザレ園 まっちゃん(右)
茨城県那珂市社会福祉協議会 うっちーさん(左)大分県の社会福祉法人博愛会 ひでさん(右)
実は十人十色のCSWの仕事。それぞれの内容は?
編集長:最初におひとりずつCSWとしてどういったお仕事をされているのか教えていただけますか?
ひでさん:大分県の社会福祉法人博愛会にて知的障がい者の入所施設の職員として働きながら、CSWとして8月に誕生したコミュニティセンター「日乃出茶寮」の現場責任者をしています。そこは障がいのある方たちが従業員となり、地域の高齢者や子どもたちと交流できる温泉付きのコミュニティセンターなんです。CSWとしてその施設の運営をしています。
ひでさんがCSWとしてかかわる温泉付きコミュニティセンター「日乃出茶寮」。障がいがある方がたが働いている。
うっちーさん:私は、茨城県内の社会福祉協議会に勤めています。CSW歴は3年目です。私の場合、特定の方に対して個別支援を行うというよりも、どちらかというと地域に対する働きかけなどの取組を仕事としています。例えば一人暮らしの高齢者が抱えやすい問題として、車が運転できない、身体的な障がいによりごみ捨てが難しい、などが挙げられます。そうした課題に対して、どういう社会的な支援があるとよいかを練って、行政や地域包括支援センター、民生委員などと協力を図りながら、具体的なプランをつくり実現していく仕事です。
まっちゃん:私は茨城県の特別養護老人ホームで働いていて、CSW歴は7年です。別の仕事をしながら、CSWとしての仕事も担当しています。例えば、地域のなかでいわゆるゴミ屋敷ってありますよね。私たちは、それを『資源屋敷』と呼んでいるのですが、それが見つかったら、住んでいるご本人と話し、意思を確認しながら片付けをする方向にもっていきます。また、地域でひとりぼっちになっている独居高齢者の話し相手や掃除にうかがうなど、地域の困りごとに対応します。ご本人のために何が必要なのか、どんな支援が必要なのかを、地域の方や行政などと相談しながら支援しています。
かつて支援した『資源屋敷』の庭
編集長:「ごみ屋敷」ではなく「資源屋敷」という呼び方ははじめて聞きました!
まっちゃん:「ごみ」と言っているのはあくまで外の人の視点で、ご本人にとっては必要な物、宝物かもしれないんです。だから「資源」という言い方をしています。私たちからどう見えるかはおいておいて、ご本人にとっては資源に違いないですから。
我われは、そんな資源屋敷を見つけると、福祉魂に火がつきます。なんとかしたい、助けたいという思いが湧いてくるんです。
よこちゃん:私もまっちゃんと同じ職場で、救護施設の生活相談員をしながらCSWをしています。仕事としては、制度の狭間で支援を受けることができない方がたの相談を受けています。例えば、資源屋敷の話がありましたが、予算がなく掃除を業者に頼めない方もいますし、家族が協力的ではないケースもあって、依頼が来ます。そうした場合に、必要な行政の窓口を紹介したり、時には、一緒に申請を出しに行ったりします。
そもそもCSWの定義は?
編集長:CSWって何か定義や位置づけみたいなものがあるのでしょうか?
うっちーさん:私は、ソーシャルワーカーのひとつと捉えています。ソーシャルワーカーというと病院や施設に配置されている専門職をイメージされると思うのですが、コミュニティという言葉がついている私たちは、「地域の力を借りながらご本人の社会生活を支援していく職業」ではないかと捉えています。地域の力を借りながら、といいますのは、例えばいまの日本に『資源屋敷』を解決する法律はないんです。そうした時にCSWが地域の社会資源を用いながら支援を行うわけですよね。先ほども「制度の狭間」という言葉が出ていましたが、制度・サービス単体のみでは解決できない、複合的な課題に挑むのもCSWの仕事ならではだと思います。
私は、地域の福祉への理解が深まるように、子どもたちへの福祉教育に力を入れています。それもCSWの仕事だと思っています。具体的には小中学生に「福祉って何?」ということをわかりやすく伝えたり、障がいがある方がたとの交流や疑似体験を企画したり。
あとは近年相談が増えている課題として、引きこもりがあります。なかなか表に出たがらないわけですから、近所の方に協力してもらうこともありますし、引きこもりの方が安心して集えるような場をつくっていきたいと考えています。
うっちーさん、福祉の授業中
編集長:CSWの仕事のなかで、どんなことに喜びを感じますか?
うっちーさん:CSWの仕事として、小中学生に高齢者施設を訪問してもらうというものがあるのですが、そのときに、高齢者の方がたは涙を流して喜んでくださり、それを見た小学生たちも目を輝かせるんです。「自分たちにも地域の人たちのためにできることがあるんだ」という感想を子どもたちが話す場面に立ち会えるのは本当にうれしいです。
ひでさん:私は現在、コミュニティセンターを運営していますが、利用してくれる人が増えて活気づき、笑顔が溢れるところを見るとやりがいを感じますね。また、働いているのが障がいがある方がたなのですが、地域の高齢者と障がいがある方とが交流している様子を見ると、うれしくなります。近所に小学校があるので、今後は、子どもたちとの触れ合いも増やしていき、年齢や立場を超えた交流をつくっていきたいと思っています。私の職場の理念に『人の喜ぶ顔を見て喜びなさい』というものがあります。私自身も、みなさんの幸せそうな笑顔を見ると本当にうれしいなと感じています。正直なところ、やめたいと思うことも過去にありましたが、いくつかの大きな喜びが脳裏に焼きついていて、いまでも頑張れます。
まだ若い頃、こんなことがありました。日々仕事に慣れずにツラいなと感じていたときに、朝、車で通勤して駐車場で降りたら、知的障がいがあるご利用者の方がベビースターラーメンを渡してくれたんです。実は私、ベビースターラーメンが好きで(笑)。いつその方に自分のベビースターラーメン好きがバレていたのかわからないのですが、日々、接するなかで見抜いていたんですね。「自分は助けているつもりで接していたのに実は助けられていた」と気づいた瞬間でした。その時のベビースターラーメンの袋はいまでも机に貼っています。
ひでさんの机の上には、いまでもベビースターの袋が
まっちゃん:私の場合、やはり、少しずつ、関係をつくっていって支援を必要とする方からも地域の方からも「あなたに来てもらって助かった、ありがとう」と言われるのが何よりもうれしいですね。それまでの苦労が本当に吹っ飛びます。
よこちゃん:私も同じです。こんなことがありました。地域に出て仕事をされている訪問看護の方から「家の中が『資源屋敷』になっていて劣悪な環境で、ケアも外でやらざるを得ないくらいの高齢者がいらっしゃるのでなんとかしたい」と報告を受けたことがありました。でもご本人は、家が汚いとは思っていないんですよね。そこから私たちは、日々通いながら、少しずつ距離を縮めていきました。ある日、その家の近くで火事があり、ご本人が「家の周りの草木が燃えないか心配だ」と言っているのを聞いて、「いまだ!」と思いました。「では、まずは家の庭からお掃除しませんか」と提案したら、受け入れてくれて、それから3年くらい経って、やっと家のなかも掃除させてくれたんです。長い道のりなんですけど、最終的にその方の家がきれいに衛生的になって、精神的にもお体的にも元気になられている姿を見ると、「あぁ、やってて良かったな」と思います。
大変なことは山ほどある。地域を巻き込むゆえの難しさ
編集長:先ほどの話のなかでも垣間見えましたが、大変なことも多そうですね。具体的にはどういった苦労がありますか?
うっちーさん:CSWの仕事は何かと人前で話すシーンが多いのですが、当初はそれが苦手だったこともあり大変でした。考え方が違う人の前で話したり、立場が異なる人の間に入って調整したり・・・。ただこればかりは経験を積むしかないんですよね。自治会長さんのような方と話す時も、どういう話をしたらいいかとか、逆にどういう話は避けた方がいいとか、事前に情報を集めておき、前向きに未来について話せるよう最大限の調整を図ります。また、何か企画した際などは必ず振り返るようにして・・・よかったところは次も使うようにしたらいいわけですから。
ひでさん:本当に調整力は大事ですね。誰とどうやってコミュニケーションを取って進めていくか、あとは企画力も求められます。ポイントは、話す順番です。誰にまず話にいくのか。それを間違えると不都合が生じたり、通るはずのことが通らなかったりということがありますから。たとえ同じ自治会であってもいろいろな方がいますし、話の進め方は本当に難しいです。
まっちゃん:そうですね、先ほどよこちゃんの話にもありましたが、『資源屋敷』に住んでいる人がいて、私たちは、衛生面からもきれいにしてほしいと思うのだけど、ご本人はそう思っていなくて「汚くても死なないよ」と言っていたり。ただ地域で生活する以上、ご本人が長く暮らせる環境をつくっていかないといけないわけですから、根強くサポートするのみですね。
よこちゃん:とくに皆さん個性が強い方が多くて(笑)、その個性を尊重しながら「本人の希望通りの生活」と「地域の方から受け入れられる範囲の生活」との折り合いをつけていく作業はなかなか難しいものがありますよね。でもだからこそ、我われのCSWの腕の見せ所だったりもするわけです。
編集長:給与や待遇は正直なところどうですか…?
うっちーさん:イメージと違うかもしれませんが、有給休暇は取りやすいですし、私は不満に思うことは無いですね。
ひでさん:昔は恵まれていない側面もありましたが、いまは働き方改革も進んで、有給休暇や福利厚生といった面も整っています。ここ数年の間でとくに進んできている印象があります。
まっちゃん・よこちゃん:うちも世間で思われているほど悪い待遇ではないと思います。私自身も結婚して家族もいますが、問題なく暮らせていますから。あとは一般企業のようにライバルと売り上げや件数を競い合うみたいなこともないですし・・・もちろん福祉ならではの大変なことも、ありますが、みんなで同じ方向を見て進んでいる分、支え合っている感覚はあるかもしれないです。
興味を持ってくれた未来のCSWへ、いま、伝えたいこと
編集長:これを読んでいる方のなかには、実際にCSWをめざしている学生さんや、どんな仕事なのか興味をもっている方もいると思うのですが、そうした方に伝えたいことはありますか?
まっちゃん:実はこの2~3年で、とくに、「この仕事に就いてよかったな」という思いが増すようになりました。「ありがとう」と直接言ってもらえたり、喜んでいただいていることを直に感じられる仕事ってなかなかないじゃないですか。ぜひ学生さんや興味のある方は、来てほしいですね。
ひでさん:私も同じ意見で、目に見えて役に立つ、そして喜ばれて、挙句の果てにお給料までいただける。なんて素晴らしい仕事なんだろうと思っています(笑)
うっちーさん:年々楽しくなるという感じがします。最初は大変だったけど、毎日が昨日と違う一日ですから、楽しみは尽きることがないです。
よこちゃん:施設に入所されている方にもいろいろなバックグラウンドがありますから、人間として勉強になることもたくさんあります。よく接客が好きで飲食業に進みたいっていう方がいますが、これだけ長い時間をかけて人と接して、そのなかでの変化だったり関係構築だったりも楽しめる職業は、福祉にしかないんじゃないかなと思います。
編集長:福祉系の大学から一般企業に行く学生さんも多いようですが・・・。
よこちゃん:そしたら戻ってくればいいよね。企業で経験したことが福祉業界に戻って役に立つかもしれないし。中途採用で就職する人も多いですから、そこはまず自分の決めた方をやってみればいいんじゃないかなと思います。
編集長:みなさん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
座談会を終えて・・・
コミュニティーソーシャルワーカー(CSW)というお仕事は、地域の力を借りながら住民の社会生活を支援していく職業だということがわかりました。とくに、CSWは、制度やサービス単体では解決できない、その狭間にあるような複合的な課題を解決していく大切な職種なんですね。CSWのみなさんにとっては、解決までに時間がかかるなど大変なこともありますが、地域の方が喜んだり、元気に活動されたりする姿を見るのがやりがいになっているということで、楽しみながらお仕事をされている姿が印象的でした。
次回の『福祉のお仕事ぶっちゃけ座談会』は、「男性保育士」のリアルに迫ります。
どうぞお楽しみに。