震災復興に寄り添う社会福祉法人
~熊本地震を機に誕生したコミュニティづくり
社会福祉な「まいにち」
熊本県 執筆者 くまざくら 2019.05.03
私は、熊本県上益城郡甲佐町(かみましきぐん こうさまち)にある社会福祉法人の施設長です。福祉の仕事に携わって18年。前職(?)は専業主婦でした。人口1万人強の甲佐町は、熊本市から車で30分程の距離ながら、山紫水明の、のどかな田舎町。「桜の丘(社会福祉法人綾友会)」は1985年設立の高齢者福祉施設です。「地域とともに」の理念のもと、グループの病院を含め、特別養護老人ホーム、デイサービス、ケアハウス、グループホーム、小規模多機能、居宅介護支援、訪問介護と、安心して暮らし続けられるような支援をめざし活動してきました。
2016年、熊本地震が発生し、甲佐町も大きな被害を受けました。震災直後、うちの法人では、介護の必要のある多くの高齢者を受け入れたり、自宅が被災した泊まり込みの職員とその家族、0歳から103歳までが入り混じる混乱の時でしたが、少しずつ、少しずつ日常が戻ってきました。全国からの支援のお陰もあり、がれきの山が片付いていき、6月には、甲佐町に県内第一号の「白旗仮設団地」ができました。
被災の程度もさまざまならば、取り戻せる日常の質も、量も、速度にも大きな差があります。なかでも生活の基盤であり、長年守り続けてきた家が一瞬にして壊れるという体験をされた方の困難は想像を絶するものがあります。とくに高齢の方は、体力や気力を維持するだけでも大変なことだと思います。そんな方たちが、今日一歩立ちあがってみる機会、明日につながる楽しみになるようなお手伝いができないかな、と考えました。
「仮設で食堂をひらこう!」
まずはおいしいバランスのとれた温かい食事をとってほしい。食べるために、「よいしょ」と家から出て歩けば運動にもなるし、人と顔を合わせて、話をしたり、気に掛け合ったりするきっかけになるかもしれません。いろんな集まりが苦手な方にこそ来てほしい。黙って来て、黙って食べて帰るだけでも社会参加。周りの人のおしゃべりが耳に入るだけでも元気になります。きっと。
ただ、被災された方たちの心情を思うと、こちらの思いだけで行動するのはためらわれ、どういう形で実行すればよいのか、役場や地域支え合いセンターの方たちに会うたびに、「食堂がしたい、食堂がしたい」とぶつぶつ相談してきました。
阪神、淡路、中越、東日本と繰り返された大震災の経験から、白旗仮設団地にも、人と人とのつながりを大切にするためのコミュニティスペース「みんなの家」という集会所がつくられました。
「みんなの家」は住民のワークショップを経てつくられた木の香り豊かな洒落た建物で、はじめて足を踏み入れたとき、私は、たくさんの人の温かい「善意」や「希望」を感じました。ここに、この場にふさわしい手づくり感あふれる素敵な食堂をつくろう!イメージが膨らみました。主体は住民の皆さんだから、食堂の名前は「白旗食堂」。「みんなの家」で、毎週火曜日、12時オープン。メニューは桜の丘の昼食と同じ。自慢の食事で1食400円。材料費として、ちゃんとお金をいただくことにもこだわりました。地域支え合いセンターの相談員さんが、高齢者を中心にチラシを配ってくれました。足りない食器は、有田焼の卸の業者さんが寄贈してくれました。私も夜なべでランチョンマットを縫ったり、看板をつくったり。封印してきた専業主婦時代の手仕事技の復活です。
そしていよいよ2017年3月、白旗食堂がオープンしました。
開店までは大忙し。団地内のボランティアの方たちも準備を手伝ってくれます。
食堂では、まず食券を買っていただきます。食券の販売も、団地の自治会長さんが、「俺にまかせなっせ(まかせて)」と請け負って下さっています。食事が余りそうなときは、皆に電話して「まだあるけん、来んねー(まだあるから、おいでよ)」と、調整してくれているみたいです。
食事風景
今年のお正月。おせちでお祝い
桜の丘の職員のひとりが、「白旗の人たちにも食べさせて!」とチーズケーキをつくってくれます。長年つくり続ける自慢の逸品です。コーヒーとチーズケーキともう一品付けて100円。デザートはちょっとコワモテの男性たちにも大人気。外のテラスで楽しまれています。
夏休みに入ると、子どもたちの利用も。
桜の丘に来た実習生たちも連れていきます。この日は体験実習の高校生。「孫みたい」と喜ばれ、「これから頑張って」と励ましの言葉をかけていただきました。
はじめは、「白旗食堂」を受け入れてもらえるか不安もありましたが、団地内のボランティアの方たちにも支えられ、毎週通ううちに、なじみの関係ができてきました。「貝汁が食べたい」「団子汁がよかな~」とリクエストが出てきて、私たちもそれに答える余裕がでてきました。カレーをリクエストされた時は、男性陣がカツカレーにするんだと、テラスで買ってきたカツを手に待ちかまえ、「おぉ来た来た」と迎えてくれました。
それぞれがさまざまな問題や将来の不安、いろいろな感情を抱えておられます。それでも、食事のときはいつも楽しい話題や冗談が飛び交い、笑い声が絶えません。食堂に集う皆さんが、この時間を楽しいひと時にしよう、という意識をもって集まってこられていることが伝わってきます。足が悪い方には手を添え、顔が見えないと迎えに行き、具合が悪いと聞くとお弁当にして届けたり。90代の男性は、誘われて来られた当初は食も細く、無表情でしたが、そんな和に包まれ、皆さんの中心で大笑いするほどお元気になりました。さりげなくお互いを気遣い合う暮らしが、皆さんを支え、一歩踏み出す力を生み出しているように思います。「白旗食堂」がそんなつながりを紡ぐことにお役に立てたのであれば、本当にうれしいです。家を再建して仮設を出た方も、火曜日には食堂にやってきます。「元気しとった?」「会いたかった~」「ここには身内以上の仲間がおるけんね」
4月で熊本地震から3年。災害公営住宅が少しずつ完成し、2、3月には引っ越される方が増えます。公営住宅に移っても、寂しくないように、仮設でのコミュニティをつないでいこうと、そんな話題が出るようになりました。
食事の場が紡ぎだす人の和の可能性を実感させてくれた「白旗食堂」。これからも、地域の課題を解決していく社会福祉法人として食を通した支援を考えていきたいと思っています。
くまざくら
熊本県社会福祉法人 綾友会 桜の丘
高齢者福祉施設の施設長です。趣味、関心は生活全般。おいしいものを食べること、作ること。
植物を育てること、人と話すこと、観察すること・・・。福祉の職場は、時代も価値観も違う人たちが普通に交じり合っていて、刺激的です。そんな、かなり幅広い「日常」をお知らせできたらと思います。
高齢者福祉施設の施設長です。趣味、関心は生活全般。おいしいものを食べること、作ること。
植物を育てること、人と話すこと、観察すること・・・。福祉の職場は、時代も価値観も違う人たちが普通に交じり合っていて、刺激的です。そんな、かなり幅広い「日常」をお知らせできたらと思います。