社会福祉HERO’S

「福祉施設ビフォー・アフター」 ~福祉建築とケアの関係 ~

社会福祉な「まいにち」

大分県 執筆者 釘宮謙悟 2019.02.08

こんにちは!釘宮謙悟と言います。関東の大学を卒業後、テレビ局で10年間働いた後、奥さん子どもと一緒に実家のある大分県にUターンし、社会福祉法人のマネジメントの仕事をしています。趣味は、知らない町をランニングすることとラジオを聞くことで、その昔はハガキ職人として「デーモン・オーケンのラジオ巌流島」「月刊少年ギャグ王」などに投稿していました。好きな番組はTBSラジオの「ジェーン・スー生活は踊る」「神田松之丞 問わず語りの松之丞」です。社会福祉法人のさまざまな取組についてラジオのように気軽に知ってもらえたらなぁと思っています。

 

子どもと一緒に登山をする筆者

 

さて、今回は約35年ぶりに建て直すことになった障害者入所施設の「劇的!リフォーム・プロジェクト」についてです。建物が完成するまでに利用者さんや、保護者さん、職員の皆さんといろんなディスカッションを行いました。その結果(手前味噌で大変恐縮ですが…)とても素敵な建物が完成しました!入所施設の建て直しというのは人生のなかで何度もあることではないと思うので、入所者さんがハッピーになる「福祉建築とケアの関係」について、完成までの2年間の取組をレポートさせていただきたいと思います。

 

建築から約35年経過してしまった「旧・第一博愛寮」

 

今回、建て直すことになった施設は「第一博愛寮」という昭和57年に建築された当法人のなかで一番古い建物です。法人自体は来年度70周年を迎えます。ここには知的障害をある利用者さんが約80人生活していらっしゃいます。完成当時としてはユニット化された居室を備えた最先端の施設でした。しかし、さすがに築35年も経つと経年による住み心地の悪化や、時代の変化に伴う支援のしづらさ、災害時などへの不安が目立ってきました。また、障害特性が異なる利用者さんが狭い居室内で一緒に生活することで喧嘩が絶えない毎日でした。

 

居室が狭かったためさまざまなトラブルが起こっていました

 

そこで施設整備の申請を行い、決定をいただきました。設計はスウェーデンやデンマークなど北欧の福祉建築を学んだ京都市の株式会社莫設計同人の松村正希設計士に「家庭的で、それぞれの障害特性に合わせた生活ができる全国に誇れる施設をつくってほしい」という依頼をしました。入所施設は閉鎖的で暗く寂しい場所というイメージを持たれがちですが、明るく楽しく毎日が過ごせて、社会に開かれ、利用者さんのプライバシーも保てる『これからの入所施設のロールモデル』と言われるような施設をめざしたいと考えました。テーマは「やさしさ日本一の入所施設をつくろう!」です。

プロジェクトチームで新しい施設の検討をしました

まず、松村建築士が過去に設計した熊本県の「特別養護老人ホーム龍生園」に見学に行きました。利用者さんの重度高齢化が進むなかで、学ぶべきは先進的な老人施設であると考えたからです。龍生園さんでは行き届いた支援や機械浴、ユニットごとで料理をしたり、内装を均一にしないことで生活感のある雰囲気をつくる大事さを学ばせていただきました。

建築模型を元に施設のありかたを考えました

 

大分に帰った私たちは、理事長をトップにプロジェクトチームをつくり、職員間で1か月に一度の建設会議をもつことにしました。また、保護者さんをお呼びし、建築士、職員と一緒になってどのような施設をつくるのかという議論も行いました。これらのさまざまな話し合いを経て平面図と建築模型を作成していただき、それを元に議論を深めました。そのかいあってモダンで北欧流の支援ができる入所施設が2018年10月31日に完成しました

 

ついに完成した「新・第一博愛寮」

 

何ということでしょう!新生「第一博愛寮」は13,000平方メートルの敷地に、木造の温かい雰囲気の個室が84部屋、全室に温水洗面台とトイレを備えたワンルームタイプに一新しました。個室生活ではテレビのチャンネル争いや、騒音の問題もありません。共有スペースでちょっかいを出された時は自分の部屋でクールダウンすることもできます。ベッドは一流ホテルで使われている南美唄福祉工場のポケットコイルマットレスを取り寄せました。部屋にはイケアのソファーもあり、のんびり過ごすことができます。

 

自分の部屋でパチリ!ムードメーカの由香さん

 

また、障害の特性ごとにユニットを4つに分けることによって人間関係の問題が激減しました。他施設から見学に来た施設長さんも利用者さんの落ち着きぶりに大変驚いていました。保護者さんは「歳をとったら自分もここに入れていただきたいぐらいです」と嬉しそうに笑顔でおっしゃってくださいます。

 

ごはんとみそ汁の美味しい湯気が立ち昇るダイニング

以前は、人恋しさと居場所の無さからか、毎日施設の玄関に所在なさげに座っていた方たちが何人もいました。新しい施設に引っ越しをした結果、みなさんリビングや居室で思い思いに過ごしていて、誰も玄関に来なくなりました。眉間に集団生活のストレスからくる深い縦皺があったAさんに「新しい施設はどうですか?」と聞いてみたところ、すっかり皺が無くなった顔で「そりゃあよく眠れるよ」と笑顔で答えてくださいました。自分一人になれる空間があるのが、こんなに人の気持ちを和らげるのか「支援における住環境ってメチャクチャ大事!」ということを改めて感じました。

 

自分の部屋がやっぱり一番落ちつきます

 

新施設への引っ越しで働いている職員の笑顔も増えたように感じられます。ユニット化によって支援が手厚くなった分、大変になった部分があると思うのですが、支援に対する積極性が変わってきました。現在は介護ロボットの導入や、発達障害がある利用者さんへの支援力の向上、自己決定について研究をはじめています。利用者、職員共に施設の環境改善が大事であると感じました。

介護ロボットの研修会も行いました

 

2019年5月にはランチタイムだけオープンするおしゃれなレストラン棟が完成します。「住」の次は「食」。食の質の向上と自己決定をめざして定食屋さんのように自由に好きな食べ物を注文できる計画をしているところです。これらの改善の取組を法人内で水平展開して法人の目標である「やさしさ日本一の社会福祉法人」を実現したいと考えています。

 

日々の支援に笑顔いっぱいで取り組むスタッフ

 

釘宮謙悟
大分県社会福祉法人博愛会

1979年大分県生まれ。青山学院大学卒業後、テレビ局に就職。
13年大分県にUターンし社会福祉法人博愛会に入職。事務局長として法人の採用活動や情報発信をしている。
趣味はランニングと野宿。三度の飯よりTBSラジオ好き。「やさしさ日本一の社会福祉法人」を目指しています。
博愛会HPは http://hakuai-oita.com/ 博愛会Facebookは https://www.facebook.com/hakuaikaioita/

1979年大分県生まれ。青山学院大学卒業後、テレビ局に就職。
13年大分県にUターンし社会福祉法人博愛会に入職。事務局長として法人の採用活動や情報発信をしている。
趣味はランニングと野宿。三度の飯よりTBSラジオ好き。「やさしさ日本一の社会福祉法人」を目指しています。
博愛会HPは http://hakuai-oita.com/ 博愛会Facebookは https://www.facebook.com/hakuaikaioita/

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