社会福祉HERO’S

難民やホームレスなど生活困窮者の医療をサポートするのが、私たちの仕事 ~メディカルソーシャルワーカー斎藤優喜子さんインタビュー

先輩・同僚インタビュー

東京都 聞き手 Take 2018.12.10

Takeです。私は東京都で病院、高齢者施設、障害者施設を運営する社会福祉法人で事務局長をしています。

みなさんは「ソーシャルワーカー」という職業をご存知でしょうか。生活する上で困っている人や不安を抱えている人、社会的に疎外されている人に対して、問題解決のための援助を提供することを職としている人たちのことを言いますが、病院に勤務しているこのような職種の人をメディカルソーシャルワーカー(以下 MSWという)と呼んでいます。
MSWの業務は、病院を利用される患者さんについて、紹介してくださった他の医療機関との調整をしたり、患者さんの入院・転院などの調整をしたり、退院された後の施設入所や在宅生活についての調整や支援をしたりということがありますが、「無料低額診療事業」を実施する病院に勤務するMSWの大きな特徴として、低所得者・生活保護者・一定の住居を持たない方の診療や外国人の方の診療の支援をしています。
聞き慣れない言葉だと思いますが、「無料・低額診療事業」というのは、生活困難者が経済的な理由によって必要な医療を受ける機会を制限されることのないように無料又は低額な料金で診療を行うというものです。今回私は、そんなメディカルソーシャルワーカー(MSW)の仕事をしている斎藤優喜子さんにインタビューしました。

Take:斎藤さん、よろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いします。

斎藤:
桜町病院の地域医療連携室に勤務するMSWの斎藤です。私は大学卒業後、MSWとして病院に勤務し、この桜町病院に来て17年になります。

Take:
無料・低額診療について教えてください。

斎藤:
この事業はホームレスの方や経済的に困窮されている方への医療支援を行うということになりますが、もうひとつの特色は、外国人の難民申請者に対する受診支援をしているということです。当院はカトリックの医療施設であるということもあり、外国人の外来受診などが地域の中では多く、職員が外国人の診療に比較的慣れているということがあり、産科などで外国人の入院を対応することもありました。そのような中で2006年から難民申請者に対して特別診療券を用いて外来費用を負担する形で難民支援を行っています。

Take:
具体的にはどんな事案がありましたか。

斎藤:
難民申請者は置かれている状況が複雑で、場合によっては母国へ強制送還されてしまうことにもなるため、ご本人が特定できることは申し上げられませんが、ミャンマー国籍の女性のケースをお話します。
Aさん、ミャンマー国籍、50代女性、1997年にミャンマーより来日し、同国出身の夫と結婚しお子さんが一人いらっしゃいます。都内に在住し、在留資格がなく、難民申請を1度却下されていて再申請中でした。夫は就労の許可が出ていて飲食店で働いていますが、Aさんご本人は就労許可がなく、病気がちなお子さんと自分の医療費の支払いは難しく、なかなか病院を受診できないという状況でした。MSWがこれまでの経過や受診歴を確認するとAさんはこれまで穏やかだった口調が急に激しくなりました。「私は何も悪いことしていません。自分の国で民主化の運動をしていただけです。でもそのことにより命が危なくなったから日本へ逃げてきました。日本でも何も悪いことはしていない、それなのに何かがあるとすぐに警察に呼ばれることもあった。夫は入国管理局に今収容中でいつ出られるかわからない。夫がいないと収入がない。子どもの病院代も私の病院代も払うことができない。膝が痛いがずっと我慢してきた。一度他の病院で診てもらったがお金が高くてとても続けられない。」私たちは国民健康保険が取得できるように行政へ相談しながら、Aさんの治療を続けました。しかし、行政からは健康保険証の取得には該当しないとの返答があり、無料低額診療の特別診療券で対応しました。

Take:
医療の現場で難民申請に関与するなんて考えられなかったのでは??

斎藤:
そうですね。このご家族は全員当院を受診されていて、Aさんから生活苦や母国での状況、お子さんの話など様々なことをお聞きしました。その後、特別在留資格が下り、堂々と日本に滞在することができるようになりましたが、「難民である」ことへの特別な思いがあることを教えられました。

Take:
医療という立場だけでない対応が求められますね。

斎藤:
このほかにも多くの事例を経験してきましたが、毎回言えることはこのような方々は難民申請をするまでに過酷な状況下で生活してきた方が多いため、あまり立ち入ったことを伺うことを避けながら必要な情報を収集する必要があるということです。一方で、難民申請者に対する理解を深めるための発信や活動をもっとしていく必要があると思っています。現在では東京都社会福祉協議会医療相談室と連携を取り、難民支援を行っている支援団体からの受診依頼や個人支援者からの受診依頼に対応しています。一つの病院だけで対応できることは限られており、MSW同士の連携をさらに深めて様々な医療機関で受診ができるような活動になってきていることを実感します。

◆インタビューを終えて
実は、ここ数年難民申請者やオーバーステイ外国人の方の受診件数が減少してきているとのことです。慢性疾患をかかえ長期的に受診していた患者さんが、本国へ強制送還されたケースも複数あります。強制送還までの間の不安な気持ちを外来受診時に聞いたり、その不安からくる様々な症状を訴えて頻繁に受診することもあり、できるだけ気持ちに寄り添うように対応していると斎藤さんは言います。また、本国に返還されてすぐに医療にかかれる状況であるか定かではないため、医療の必要性を当院の医師が診断書に書くなど、病院全体で対応しています。
現在の特別診療券は、近隣の市役所や社会福祉協議会から相談のある生活困窮者の方々の利用が増えていて、外国人やホームレスなど特別な人のためのものというイメージから変化しています。時代とともに変わるニーズにも対応しながら、様々な事情で必要な医療を受けることができない方へ幅広く対応できるように支援団体や関係機関との連携を深めていくように努めています。このように決して表舞台で目立つ仕事ではないですがMSWは日々活動しています。

Take
東京都聖ヨハネ会 事務局長

1964年生まれ。大学卒業後民間会社(製造業)や医療機関での勤務を経て、2009年から現在の社会福祉法人に携わるようになりました。病院・高齢者施設・障害者施設を運営する法人にいる中で、自分もこれまで知らなかった社会福祉法人の魅力をこの場で広く伝えていければという思いと、社会福祉法人という存在が地域に、そして世の中に何ができるかを考え、発信する場になればと思っています。

1964年生まれ。大学卒業後民間会社(製造業)や医療機関での勤務を経て、2009年から現在の社会福祉法人に携わるようになりました。病院・高齢者施設・障害者施設を運営する法人にいる中で、自分もこれまで知らなかった社会福祉法人の魅力をこの場で広く伝えていければという思いと、社会福祉法人という存在が地域に、そして世の中に何ができるかを考え、発信する場になればと思っています。

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