「社会福祉HERO’S TOKYO 2019」プレゼンテーターに学生ライターが会いに行った! 連載⑥柚の木福祉会 藤田智絵さん『小学校内に障がい者作業所、「できる」と笑顔が交わる魔法の部屋』
編集部ニュース
2019.11.27
社会福祉の現場でさまざまな挑戦をしている若手スタッフたちが登壇するイベント「社会福祉HERO’S TOKYO 2019」(12/10開催)に登壇する7人のプレゼンテーターに学生ライターが密着取材。その第六弾は、国際基督教大学の西坂玲香さんが、社会福祉法人柚の木福祉会(福岡県)で働く藤田智絵さんに会ってきました。
西坂 玲香さん
国際基督教大学1年。幼少期をハワイで過ごしフラを踊ることが好きです。自分で実際に触れた「明るく・ユニークな福祉」を記事を通して発信する素敵な体験をしたいと思い、応募しました!
左から、藤田さん、ボランティアの有園さん、支援員の河合さん、取材を担当した西坂さん、塾長の劉さん
皆さんは子どもの頃、休み時間に障がいのある方がたと遊んだり、何かを教わったりしたことはありますか?
障がいのある子どもたちが同世代の子どもたちと触れ合う機会が少ないまま育ち、大人になっていきます。これらの問題をとある小学校の余裕教室を活用して解決することで、2015年度グッドデザイン賞も受賞した、魔法のような「部屋」を実現させたヒーローに話を聞きました。(西坂玲香)
柚の木福祉会の藤田智絵さん
福岡県を拠点とする社会福祉法人柚の木福祉会。子ども・高齢者・障がいのある方が、「自立」「成長」「いきがい」を、すべててのライフステージで実現できるようにさまざまな事業を展開しています。そのなかの一つ、障がい者福祉の事業として、小学校内で知的障がいのある方が働く作業所「福祉創造塾ふれあいの部屋」を運営しています。
「みんなちがって、みんないい。そんな社会が広がって欲しい。そして“優しさ”が積み重なってほしい。子どもの頃に覚えた優しい心を持ち続けられる人が増えたら素敵じゃない?」——そう話すのは、柚の木福祉会 営業次長の藤田智絵さん(31)。
福岡県、志免南小学校内にある障がい者作業所「ふれあいの部屋」。仕切りのない廊下でつながった、1年生の隣の教室をそのまま使用しています。休み時間には大勢の子どもたちがこの部屋に訪れ、6人の障がいのあるご利用者とともに遊び、遠足や運動会などの行事にも参加します。このユニークな部屋をひと目見ようと、日本だけでなく、海外からも人が訪れます。その数は年間1300人を超えます。
「『ふれあいの部屋』を求めてこの学区に引っ越してきました。障がいのある方とあまり接する機会がなかった親が、子どもに彼らについて教えるのは難しいと思います。障がいのある方と自然と接することができるこの教室にある温かさを、子どもに“肌で”感じて欲しいと思い、引っ越してきました」と話すのは、広報の入江さんです。
広報の入江さん(左)
障がいのある方が「できる」を感じることのできる場
「当時、高校を卒業した障がいのある方の多くはその後の行き場がなく、ほとんどの方が働いてないという現実があった。どこの作業所も定員がいっぱいで、社会に出られなかった」と話すのは「ふれあいの部屋」を開所した柚の木福祉会理事長の白谷憲生さん。
柚の木福祉会理事長の白谷さん
白谷さんは日本で初めて、小学校の余裕教室に障がい者作業所を設けた発起人。障がいのある利用者が“できる”ということを感じることができる場となりました。
「一つの仕事を利用者さんに合わせて割り振り、仕事をしてもらう。彼らができることを増やしていくことでそれが自信につながる。みんなできることが違っていて、一人ひとりに自分の100%がある。人にはそれぞれのあり方があって、それで完璧なんです。それを忘れちゃいけない」(白谷さん)
掃除も自分で行う利用者の方がた
しかし、この障がい者作業所を小学校内につくる試みに対して、保護者からの反対意見は少なくありませんでした。この”障がい”に対する人びとの心のバリアを取り除くべく、「ふれあいの部屋」の塾長に就任した藤田さんは「明るい福祉の発信」を探求していきます。
「福祉発信」の意味を探し「ふれあいの部屋」を温かさが交わる場所に
藤田さんは「楽しい」を切り口に「障がい」を伝えるためにさまざまな工夫をしていきます。
「まず、私と小学生の子どもたちの間に壁がありました。だから、子どもたちに親近感をもってもらうために、“親しみやすい近所のお姉ちゃん”という私のイメージ像をつくりました。そして、ふれあいの部屋でダンスタイムを設けて、子どもたちに“楽しい!” と思ってもらいました。“心踊れば皆同じ”という言葉、知ってます?踊ると笑顔になって、笑顔になると楽しくなるということです」(藤田さん)
子どもたちが藤田さんに会いに「ふれあいの部屋」に行くと、そこにはいつも障がいのある方がたの姿が。藤田さんと同じように子どもたちを迎えます。藤田さんはこのプロセスを通して、子どもたちと障がいのある利用者が自然と交わる環境をつくりました。
昼休みに子どもたちと利用者の方がたで一緒にダンスタイム
「でもしばらくすると、利用者たちが緊張して、笑っていないということに気づきました。そこで、笑顔体操もはじめたんです」(藤田さん)
「子どもたちと障がいのある利用者がより楽しく交流できるように、さまざまな種類のアクティビティを行なっています。ダンスやサッカーなどの多様なレクリエーションや七夕のイベントもはじめました。今では七夕は子どもたちが楽しみにしている学校行事にもなっています」
数かずの七夕の思い出の写真を広げる藤田さん
「時には子どもと利用者との間でケンカも起きるのですが、そんな時に心がけていることがあります。私と、子どもたちや障がいのある方との相互の信頼関係を築くために、どちらかを擁護するのではなく、”平等に真剣に正面から向き合うこと”」(藤田さん)
「ふれあいの部屋」で大事にしている“ふれあいルール”
「ふれあいの部屋」が生み出す素敵なサイクル
「ふれあいの部屋では子どもたちの学年に合わせて、それぞれが“違う関わり方”をしています。1〜2年生では一緒に遊び、楽しむのみ。そのため、なかには部屋にいるお姉さんとお兄さんが障がい者だという認識をもっていない子もいます。3年生の総合学習の授業で、実際に利用者がゲストティーチャーとなり、『ふれあいの部屋』の意義を学びます。子どもたちはここで初めて、『あ、ふれあいの部屋の人たちは障がいがあったんだ』と知ります。そして3〜6年生では、どうしたらふれあいの部屋の人たちと楽しく過ごせるか、共生の仕方を考えながら交流していくのです」と話すのは「ふれあいの部屋」現塾長の劉(リュウ)さん。
さまざまな学年の子どもたちとの交流を通して、彼らの立場が「遊び相手のお兄さん・お姉さん」から「子どもたちに教える先生」になります。彼ら自身が”大人としての自覚”をもてるようになるのです。
彼らの“できる”ことが増え、それが自信に変わり、笑顔になり、より子どもたちとの交流が生まれる。ここで、また“できる”が増えて、彼らの自信につながっていきます。「ふれあいの部屋」はこのような素敵なサイクルを生み出しているのだそうです。
「自信」と「笑顔」でいっぱいの利用者の方がた
積み重なっていく“優しさ”
「最初は子どもを怖がっていた利用者が、今ではあの子は泣いていないかな〜、ケンカしていないかな〜と子どもたちを心配するようになります。また、子どもたちが『ふれあいの部屋は僕の宝物だ』と言ってくれるときがあります。さらに、今では保護者の方がたが授業参観の際に部屋に訪れ、『いつもありがとうございます!』と声をかけてくださる。これは、子どもたちが家で楽しそうにふれあいの部屋での出来事を話している証拠だと思います」(藤田さん)
小学生が書いた「ふれあい だいすき」
「みんなちがってみんないい。それを“伝えて”いきたい。そして、ふれあいの部屋に実際に来てくれる人が増えたらいいな!」(藤田さん)
「ふれあいの部屋を“人が集う場所”にしたい。“いつでも来ていい場所”にしたいな!」(劉さん)
劉さん(左)と藤田さん(右)
藤田さんはこれからも、地域のみんなが母ちゃんのように、父ちゃんのように、息子のように、娘のように、交流する「温かさ」に溢れた「明るい福祉」を通して、違いのある人どうしがつながり合う素晴らしさを笑顔とともに日本中の人びとに向けて発信し続けます。
今回取材した藤田智絵さんが登壇!
12/10(Tue)東京渋谷ストリームで開催!「社会福祉HERO’S TOKYO 2019!」
☆☆詳細・観覧の申し込みはこちらから☆☆
http://www.shafuku-heros.com/news/event2019-3/
*この記事は、(株)社会の広告社とオルタナSが実施した企画「ソーシャルステイ」に参加した大学生が執筆しました。ソーシャルステイではソーシャルイシューの現場を大学生に体感してもらい、記事を通して発信してもらいます。