「社会福祉HERO’STOKYO2019」プレゼンテーターに学生ライターが会いに行った!連載⑤ウエル千寿会 田中伸弥さん『「看取り文化の再構築」~命のバトンを繋ぐとは~』
編集部ニュース
2019.11.26
社会福祉の現場でさまざまな挑戦をしている若手スタッフたちが登壇するイベント「社会福祉HERO’S TOKYO 2019」(12/10開催)に登壇する7人のプレゼンテーターに学生ライターが密着取材。その第五弾は、中央大学の別所梨央さん。社会福祉法人ウエル千寿会(宮城県)で働く田中伸弥さんに会ってきました。
別所 梨央さん
1998年生まれ、社会課題や学生の抱えるリアルに関心。NGO FEST TOKYO9期代表→引退 フィリピンセブ島で学生国際協力、CSRや環境、サスティナビリティのソーシャルイノベーションマガジン「オルタナ」でインターン。学生国際協力の限界に挑戦中。社会福祉に関して全く知識はなかったのですが、社会福祉という分野と社会課題という分野での解決には何か共通している部分があるのでは、と思い、ソーシャルステイに参加
「死」を閉ざさない大切さを語る田中さん(左)
皆さんは「看取り」にどのような印象をお持ちでしょうか?そばで最期までお世話をするイメージでしょうか。宮城県に、施設利用者と地域の接点をつくり、「看取り文化の再構築」を目指している社会福祉法人があります。(別所梨央)
特別養護老人ホーム「萩の風」で働く田中さん
宮城県仙台市を拠点に活動する社会福祉法人ウエル千寿会。同法人が経営する特別養護老人ホーム「萩の風」の特徴は、入居者が最期を迎えるまで、職員はもちろん、地域住民をも巻き込んで交流していることです。
「このホームで地域の人と入居者が偶発的に出会える接点をつくり、そして交流し、その延長にある死を閉ざしたものにはしない。入居者と社会との接点をつくりたい」そう話すのは、特別養護老人ホーム「萩の風」で働く田中伸弥さんです。
宮城県仙台市にある特別養護老人ホーム「萩の風」には、およそ100名の入居者が生活しています。
この「萩の風」には子どもたちが気軽に遊びに来られるように駄菓子屋が設置されていたり、地域の人が自由に出入りできるように生垣のない庭があります。さらに就業支援や、地域振興プロジェクト、子ども食堂の開設など、地域との接点を積極的につくっています。
萩の風 デイユースの入居者の方がた
また、入居者の記録などを家族と職員が共有できる「ケアコラボ」というICTを使ったスマートフォンツールを導入しています。一般的には紙に記録を書き、それを保存しますが、「ケアコラボ」はスマートフォンで記録を打ち込み、そこに写真や動画を貼り付けることができます。さらに家族はその記録を閲覧でき、コメントもできるため、スピーディな記録共有をすることも可能になりました。この機能によって、現場と家族の距離も近くなったといいます。
看取りを開くようにしたきっかけ
地域や現代社会の人にとって死が遠い、またはわからない存在になった原因について田中さんはこう説明します。「日本社会が経済成長優先で発展したことで、邪魔なもの・停滞するもの・非効率なものを隠してきた。見たくないものを見ないようにして生活してきたことで、地域社会は閉じられていったのではないでしょうか」。
「死」を隠すようになったことで、新たな課題が見えてきたようです。
「生きることと死ぬことは、本来同じことなのに、死ぬことだけを隠してしまったから、どう生きていけばいいのかわからなくなってしまった」
社会から「死」が遠くなったと語る田中さん
利用者のケアにまつわる課題として、「安全」を大切にし過ぎることによって「安心」が犠牲になっていると指摘します。
「本来、安全や安心はトレードオフの関係で相反するものでありますが、最近の介護の現場ではそれらが比例して、安全安心の両方を謳う施設が増えてきている。日本が潔癖であるがゆえに、安全安心がイコールになってきてしまっている。要は介護職が新しいことにチャレンジすることをしなくなった。転ばせてはいけない、喉に詰まらせそうなものは食べさせてはいけない、といったようにリスクを取らない。こうして人間らしい生活と暮らしは犠牲にされ、安全が優先されてしまう」と述べた上で、大事なことは「自由度の可視化」と主張します。
法令上の安全性を満たした上で、より安心度の高い暮らしの実現を目指しています。
田中さんは「今までのケアは、どちらかといえば、してあげるという感覚です。しかし私たちは本人が何をしたいかを大事にして、ケアをしていく」と言います。
さらに田中さんは医療と介護では異なる考えをもっています。
「そもそも『安全な死』という言葉は矛盾している。医療職ではない私たちは、『安心して死を迎える』ために環境を整えるのが仕事である。『安全な死』を目指すことではない。ここからが『看取りを開く』ことにつながる」
「命を繋ぐ」ことが特養には必要だと繰り返し語る田中さん、地域と死との接点が無くなってしまうことを避けるべく、2つの取組をしています。
一つめは、庭を開くということ。庭の生け垣を取り除くことです。「私たちは庭を地域の縁側のようにしたいと考えています。地域の方がたが入ってきやすいような庭を目指しています。入居者さんのなかには、庭に何もないから外に出ない、寒いから出ないという人が多くいましたが、庭を変えることによって入居者さんが外に出るようになりました。こうして偶発的に地域の人と入居者さんが出会う場所をつくりました」
「生け垣を取り除いたことで、認知症や高齢者の方と出会う機会ができ、イメージを変えていくことにつながる。こうして地域の人たちの考えを変える。その延長線上に『看取りの再構築』がある。『地域で生まれた誰かが、今日もここで命を全うしたのだな』ということが、道を通った人がみんなわかるようにしたい。そしてその人たちが自分たちの生活を振り返って、自分の親に電話してみたりするかもしれない。入居者さんも、もう少し生きてみようかなとなるかもしれない。こうして地域がちょっと優しくなる、きっかけになればいいと思っています」と田中さんは、地域で「死」を閉ざさない大切さを語ります。
萩の風 改修中の庭の様子
二つめの取組は、子どもたちと入居している高齢者をつなげる取組。これは駄菓子屋プロジェクトです。地域の方がたと協力して、駄菓子屋を施設のなかにつくりました。「私たちはあくまでも地域のハブとして存在する。そして入居者さんにも手伝ってもらい、子どもたちが施設に来るきっかけをつくりました」
施設の一角にある駄菓子屋「かみふうせん」
さらに、「毎週近隣の保育園と協力して雑巾縫い教室を開催しています。こうして認知症の予防や下肢筋力の向上をしています」。子どもたちと縫った雑巾は小学校に寄付しているそうです。
「雑巾縫い教室に通った子どもたちは、施設に来て入居者さんと会い、そこでいろいろな会話をする」。こうしたさまざまなプロジェクトによって入居者と地域の接点をいろいろな形でつくっています。
萩の風で仕事をしているなかで、印象に残っているエピソードを伺いました。
「私は、新人の職員に向けて、『自律することの大切さ』を伝えていました。そして4年前にその想いがやっと叶った瞬間がありました。あと数日で亡くなってしまいそうな入居者さんがいて、その部屋からいきなり『ワン!』と聞こえてきました。見に行くと、入居者さんの枕元に犬が座っていました。ご家族に聞くと、『昨日、〇〇ちゃん(新卒2年目の職員)に、まだ犬とお別れをしていなくて、犬も家で不安がっていて、会わせてあげて欲しいんだけど、施設に連れて来たらダメですよね』って言ったの。そしたら、その職員は『いえいえ、すぐに連れてきて来てください』といってくれたんです。と教えてくれました。上司に確認しないで自分で判断したと聞いたとき、私は感動して泣いてしまいました。やっと自分の思いがかなった瞬間でした」
命のバトンをつなぐ施設にしたいと語る田中さん
これまでさまざまな入居者と地域との接点をつくってきた萩の風。「まだまだ私たちの思いが届いていない層がある。30代、40代の人はなかなか私たちの活動を十分に理解されていない。そこにアプローチしていきたい。さらに、障がい福祉事業や保育事業に関して、もっと深く関わりたい、そして命のバトンを繋いでいく、学びを大切にした施設にしていきたい」と田中さんは将来について語りました。
今回取材した田中伸弥さんが登壇!
12/10(tue)東京渋谷ストリームで開催!「社会福祉HERO’S TOKYO 2019」
☆☆詳細・お申し込みはこちらまで☆☆
http://www.shafuku-heros.com/news/event2019-3/
*この記事は、(株)社会の広告社とオルタナSが実施した企画「ソーシャルステイ」に参加した大学生が執筆しました。ソーシャルステイではソーシャルイシューの現場を大学生に体感してもらい、記事を通して発信してもらいます。