社会福祉HERO’S

「社会福祉HERO’S TOKYO 2019」プレゼンテーターに学生ライターが会いに行った!連載①介護福祉士 谷口洋一さん『健康元気体操で諦めない人生を』

編集部ニュース

2019.11.19

社会福祉の現場でさまざまな挑戦をしている若手スタッフたちが登壇するイベント「社会福祉HERO’S TOKYO 2019」(12/10開催)に登壇する7人のプレゼンテーターに学生ライターが密着取材。その第一弾は、早稲田大学の高橋里沙さんが、社会福祉法人ひとつの会(山口県)で介護福祉士として活躍する谷口洋一さんに会ってきました。

高橋里沙さん

1998年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部4年。国際関係論専攻。将来、社会にインパクトを与えられるような仕事をしたいと考えているため、実際に福祉の分野で活動している人の話を聞いてみたいと思い、ソーシャルステイに参加

 

谷口さん(右)の取材をする高橋さん

社会福祉という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?「人のためになる」「社会的に意義がある仕事」というような良いイメージがある一方、「暗い」「夜勤が大変」といったネガティブなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。しかし、社会福祉の仕事には、楽しくて面白い仕事が多くあります。(高橋 里沙)

ひとつの会の谷口洋一さん

山口県防府市を拠点に活動する社会福祉法人ひとつの会。特別養護老人ホームやデイサービスなどの高齢者福祉事業を展開しています。そのほか、健康教室を開くなど、地域に根ざした多彩な活動を行うひとつの会はサッカーJ2リーグに所属する「レノファ山口」と共同で「レノファ健康・元気体操」を開発しました。

レノファ山口のホームゲームでは、「レノファ健康・元気体操」を行う時間が設けられている

「最期をどう迎えるのかではなく、最期までどう生きるのか。一人でも多くの人に人生を諦めないで『自分らしさ』を実感していただきたい」――そう話すのは、ひとつの会の谷口洋一さん(39)。

ひとつの会の事業所では日常的に、職員と約600名の利用者の方が一緒に健康元気体操に取り組んできたといいます。

ひとつの会デイサービスセンターたまのやで「レノファ健康・元気体操」を行う利用者の方がた

「スクワットやランジの動きを取り入れた筋力アップを目的とした体操なので、歩行の動きがよくなる。行動範囲が広がり、買い物や映画などを楽しめるようになった人の話を聞く。また、普通の体操とは違ってテンポが速い曲なので、アドレナリンが出てうつ病にも効果がある」と話すのは健康元気体操を考案した一人で柔道整復師の山本享平さん。サビの部分では同じ動きを使いながらも全身を動かせるようになっているため、テンションが上がりやすい構成だといいます。

実際に施設利用者の方がたはみなさん楽しそうに体操を行っており、なかには途中から立ち上がって体操をする方もいらっしゃいました。

この「レノファ健康・元気体操」のコンセプトには、3つのキーワード「①健康寿命の延伸」「②高齢者支援」「③多世代交流」があります。高齢者支援に関心を抱いた背景には谷口さんの原体験が関わっているとのことでした。

健康元気体操を指導する山本さん

谷口さんは幼少期、父、母、おば、おじいさん、おばあさん、弟との7人3世帯で生活をしていました。谷口さんのおじいさんは毎朝5時に散歩をして、その後にトーストを食べることが日課でした。

谷口さんはいつもそのトーストが焼ける「チン」という音で目が覚めたといいます。しかし、ある日、その「チン」という音が鳴らなかった日がありました。不審に思い、おじいさんの部屋に行くと、いつもは起床する時間であるにもかかわらず、そこには布団のなかでおじいさんが寝ている姿がありました。どうしたのかを聞いても「なんでもない」と話すおじいさん。おばあさんが「はよ起きいや」と声をかけると、布団のなかで排尿していたそうです。

これは認知症の初期症状で、それから谷口さんのおじいさんは散歩にいっても帰らなくなったり、さらに症状が進むと寝たきりになってしまいました。お母さんは「この家を建てたおじいちゃんだから家で看取りたい」といい、8年間介護を行いました。

おじいさんが亡くなると、寂しさからか、次はおばあさんが認知症を発症しました。そこから7年間、谷口さんのお母さんはおばあさんの介護を行い、合計で15年間自分の人生を介護にささげることになりました。

この体験が先で述べたこの体操の3つのキーワードにつながっていきます。

おじいさんは普段からよくタバコを吸っていました。健康に気を付けながら生活を営むことで、健康寿命を延ばす重要性に気づき、「①健康寿命の延伸」。

谷口さんのお父さんは、近くに相談できる人がおらず、お母さんは15年間、一人で在宅介護に従事していました。この経験が、充実した「②高齢者支援」の意義をあらためて認識するきっかけとなっています。

谷口さんと弟さんもそのような状況に対して、母親任せにしてしまっていました。「もう少し『③多世代交流』があれば、母の負担を軽減できたかもしれない」と感じたそうです。

ママフェスin 新山口に出店するレノファ山口とひとつの会

このような経験から、「高齢者の支援に悩みを抱える世帯を1世帯でも減らしたい」という谷口さんの思いが、本部にも届き、「レノファ健康・元気体操」へとつながっていきました。

「レノファ健康・元気体操」は谷口さんをプロジェクトリーダーとして、柔道整復師・理学療法士・作業療法士・あん摩マッサージ指圧師の4人の専門家がつくりだしました。「普段はリハビリを見ている彼らが企画に参画することでエビデンスを担保することができ、より効果的な体操をつくることができました。職員約340人のうち、4人の希少職種の彼らに輝く場所を与えられてうれしい」と谷口さんは話します。

「レノファ健康・元気体操」をつくったチームメンバー

「レノファ山口の試合前にスタジアムで健康元気体操をやっているのを見た時やYouTubeで体操が配信されているのを見た時、やりがいを感じる」と柔道整復師の山本さん。

ブース内では、ペットボトルフリップチャレンジが行われていた。ペットボトルを投げて1回転して立たせることに成功した人にはレノファ山口の選手のサイン付きステッカーがもらえる

こういった活動は地域のためだけでなく、職員のやりがいにもつながっています。「働き方など、介護の仕事も変わっていかなくてはならない。介護の仕事に対するマイナスイメージを覆したい。ひとつの会は自由度が高く、価値観を認め合う風土がある。まずは職員同士が認めあえるような雰囲気が大切」と谷口さんは話します。職員を大切にすることは法人のブランディングにもつながっています。ひとつの会では2年ほど前から求人広告を出していませんが、応募数は約1.5倍に増えているそうです。

「福祉には『誰かに代わって幸せにする』、英語訳のwelfareには『よりよく生きる』という意味がある。福祉の仕事は障がい者や高齢者の人に限った話だと思われがちだが、障がい者や高齢者の人以外にも『よりよく生きる』ためにはどういう風に生きていくのかを考えなくてはならない」(谷口さん)

行政やアンバサダーに配布しているDVD

谷口さんは「レノファ健康・元気体操」を広げる活動をするなかで印象に残っている出来事があるといいます。

「新山口駅への電車に乗っているとき、前にいた女の子ふたりが『レノファが体操を作ったんだってよ。すごく健康に良いらしくて、おばあちゃんと一緒にやってみたいな!今度スタジアムに行ったら動画を撮ろうと思うんだよね』と話していて、社会福祉法人の弱さを克服するとこうなるんだと思った。一般の人が巷でこんなことを話すなんて知ったらうれしくなった」

「社会福祉法人はすごく保守なところが多い。守秘義務があったり、守らなければならないことがたくさんある。すごくいいことをやっている社会福祉法人は沢山あるのに、施設内で完結しているから、良い印象が社会まで届いていない。どんなにいいものを作っても一定の円よりも広がりを見せない現状を変えたい。こんなにいいことをやっているのにそれで終わらせていいのかという思いがある。それなら、世の中のたくさんの人にやってもらって還元したほうがいいんじゃないか」

「レノファ山口はサッカーを通じて沢山の人を集め、楽しませることはできる。ひとつの会は健康につながる体操をつくることができる、ということでお互いの強さをつなぎあわせ、弱さを克服し、win-winな関係で協力して体操をつくりあげることができた」(谷口さん)。

これまで、「レノファ健康・元気体操」をのべ20万人に届けてきたひとつの会。さらに体操を広げるために、第2弾の体操も考案中。「一定の円からもっと広がる世界が見たい。全国の55のJリーグのチームにこのような体操があったらいいのではないかと思っている。山口県だけでなく、他のチームにも体操があれば、さらに元気な人が増える。それが私の夢だ」と谷口さんは話します。

 

今回取材した谷口洋一さんが登壇!

12/10(tue)東京渋谷ストリームで開催!「社会福祉HERO’S TOKYO 2019」

☆☆詳細・観覧お申し込みはこちらから☆☆

http://www.shafuku-heros.com/news/event2019-3/

 

*この記事は、(株)社会の広告社とオルタナSが実施した企画「ソーシャルステイ」に参加した大学生が執筆しました。ソーシャルステイではソーシャルイシューの現場を大学生に体感してもらい、記事を通して発信してもらいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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