社会福祉HERO’S

老人ホームに日本最大の3Dアート!?〜限界集落の社会福祉法人が観光名所をつくった理由

社会福祉な「まいにち」

長崎県 執筆者 カドジュン 2019.04.26

はじめまして、長崎県五島列島のカドジュンです。五島といっても島は5つじゃありません。大小150ほどもあるのです。これから五島列島の各地で活躍している事業所やスタッフについて紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

ホームから山をひとつ越えたらこんな絶景が広がります。つまりイナカなのです。

【プロジェクトの動機】

今回ご紹介するのは、私が勤務している特別養護老人ホームの屋上を使って実施された3Dアートのプロジェクトについてです。

なぜこんな作品を制作したのかというと、『まち』と『老人ホーム』をPRすることによって、『日本一の自然と福祉がある町』というブランディングをしたかったからです。沖縄をのぞけば日本の最西端、五島列島の旧玉之浦町(現在は五島市玉之浦町)に施設は立地しています。この町は全体が西海国立自然公園に指定されている風光明媚な地域でありますが、同時に高齢化率56%と市内トップ、『まちごと限界集落』という状況です。全国的にみても課題最先端のキビシイ環境。その現状を打開するツールとして、巨大広告をつくろうと考えたのがきっかけでした。私が人生において大事にしているものが、『遊び心』であることも大きく関係しています。

福祉車両はみんな白なのがダサい!だからマルチカラーにしました。

【プロジェクト完成】

2017年6月、知人を通して紹介してもらったオーストラリア在住の画家、ルーディ・キスラーと東京で初めて会いました。当初、私はサッカー中継でみられるゴールポスト横の3D広告をイメージして依頼したつもりでした。

Rudy Kistler(ルーディ・キスラー)はオーストラリア在住の画家です。3Dアートも得意です。

しかし、ルーディが持参してきたスケッチには屋上全体に池がデザインされていました。見た瞬間、大きくふくらむと思われる予算のことが頭をよぎり言葉を失いましたが、10秒後には「よろしくお願いします」とGOサインを出してしまいました。私は基本、楽観的なのです。なぜ、こんなに巨大になったかというと、紹介してくれた知人は私の『遊び心』の師匠です。師匠は「どうせやるなら中途半端なことはダメ!」と、当初の私のイメージをルーディに伝えていなかったのです。いまとなっては本当に感謝しています。

制作前の屋上。どこにでもあるような平屋の老人ホームです。

9月、ルーディがパートナーの小夏さんと五島を訪れ、製作を開始しました。3Dアートのような錯視を利用した作品は、特定のポイントから観ることが必要です。ホームを見下ろす場所まで車を1日に3回走らせ、写真を撮り、細かく確認しながら作業を進めました。ボランティアや職員も手伝うことでスムーズに進み、約2週間で完成しました。

1500㎡の巨大な作品は、緑に囲まれた環境のなか、あるポイントでしか立体的に観ることができないということで『シークレット・ポンド(秘密の池)』と名付けられました。ルーディが最初に老人ホームの写真を見たときに、「この屋上は池みたいだ!」という直感もあったということです。ちなみに秘密の池なので、観光マップには載っていません。おいでになるときには、ホームまでおたずねください。屋上の見学もOKです。

3Dにみえる唯一のポイントで仕上がりを確認するルーディ

職員やボランティアも作品づくりに参加しました。その大きさがわかります。

ついに完成!日本最大の3Dアート「シークレット・ポンド」

【完成後の反応や取組】

企画がぶっ飛んでいたので地元の新聞やテレビ、ネットニュースで取りあげられ、昨年には全国紙でも掲載されました。ホームがはじまって最大のメディア露出で、PRとしては大成功でした。

完成披露会にて新聞やテレビ取材の様子。

朝日マリオン.コム

https://sp.asahi-mullion.com/column/article/artrip/2599

しかし宣伝材料だけではもったいないと考え、製作の前後にはまちづくりのためにあらゆることを仕掛けました。まず製作資金をクラウドファンディングで募り、たくさんの人を巻き込みました。そして単なる観光名所にしないよう、実際に地元へお金が落ちるキャンペーンを実施しました。『3Dアートをみて美味しいものを食べよう』という企画で、3Dアートの画像を提示することで地元での飲食代金を割引し、人を呼びこみました。最後にキャンペーンによって集めたアンケートを、今後のまちづくりのマーケティング資料として活用しています。

クラウドファンディング募集サイト『CAMPFIRE』

「西果ての五島列島玉之浦町で海外アーティストが日本最大級の3Dアートを制作!」

https://camp-fire.jp/projects/view/41732

同時進行していたホームのPRと相乗効果をもたらし、まちや介護施設のイメージを変える大きなアクションとなり、ブランディングにつながったと考えています。実際に人材確保で成果をあげました。さらに今年は数組の家族からの移住相談に応じており、まちづくりの面でも結果を出せる期待があります。

地元の中学生も見学に来ました。ただの宣伝ではないことに驚いていました。

【これからの計画】

3Dアートを活用した次のフェイズは『たまんなARプロジェクト』です。たまんなは地元玉之浦町の通称で、ARとは拡張現実のことです。ARの身近な例は、あのポケモンGOです。実際に3Dアートを観に来たら、CGと連動してポイントをゲットできるシステムづくりの検討に入りました。まずは3Dアートで実験をして、その後は地域に広めたいと考えています。玉之浦町はまちごと限界集落であるとともに、町ごと西海国立自然公園です。自然と歴史が豊富な各スポットにARを仕掛け、まちとホームのブランディングをさらに進め、実際に外から人を呼びこみたいと思います。

「シークレット・ポンド」でバーチャル釣りができるかもしれません。

最後に、なぜ社会福祉法人がここまでするのかという疑問があるかと思います。それは、社会福祉法人は人口が減ると経営が成り立ちません。私たちは地域を維持するため、社福自体が人口減少問題に取り組んでいます。それは市場を自らつくりだすというとんでもないチャレンジだと認識しています。全国でもめずらしい試みがどんな結果を出すのか、今後も期待してください。

カドジュン
長崎県社会福祉法人 明和会 

長崎県五島列島で法人理事と特養の施設長を兼務している五島イチの遊び人です。小学校講師から介護業界に入って20年。公私で強力なパートナーである妻と小学校に通う娘の3人家族。旅行とアウトドア、とくにシーカヤックとキャンプが得意です。福祉にマーケティングやブランディングなどの経営戦略を取り入れ、地域でもオンリーワンな老人ホームをつくっています。日本の西のはしから福祉のイノベーションを起こし、地元の町を全国区にするため日夜フルスイングしています。離島ならではの記事を発信していければ良いなあと思います。よろしくお願いします。

長崎県五島列島で法人理事と特養の施設長を兼務している五島イチの遊び人です。小学校講師から介護業界に入って20年。公私で強力なパートナーである妻と小学校に通う娘の3人家族。旅行とアウトドア、とくにシーカヤックとキャンプが得意です。福祉にマーケティングやブランディングなどの経営戦略を取り入れ、地域でもオンリーワンな老人ホームをつくっています。日本の西のはしから福祉のイノベーションを起こし、地元の町を全国区にするため日夜フルスイングしています。離島ならではの記事を発信していければ良いなあと思います。よろしくお願いします。

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