レストラン運営に野菜づくり? それが入職5年目の福祉職の仕事って どういうことですか(笑)
~うちの福祉ビギナーズ★久住高原パルクラブ 山口 史織さん(27) インタビュー
先輩・同僚インタビュー
執筆者 相馬陽加 2021.03.01
久住高原パルクラブ 山口 史織さん
はじめまして。ひよっこ社会福祉ライターの相馬です。社会福祉法人 博愛会の知的障害者支援施設で生活支援員をしています。普通、「福祉の仕事」というと、私のように「施設で働く」と思われがちですが、実はいろいろな働き方があります。今回は、わが法人が運営する観光施設で働く若手職員、山口史織さん(27)にインタビューし、この仕事を選んだきっかけや仕事の内容、魅力などを聞いてみました。
山口さんが勤務している観光施設「久住高原パルクラブ」(以下パルクラブ)は、1990年に「福祉工場パルクラブ」として設立されました。当初から取り組んでいる農業生産活動・食肉加工・焼き肉レストランに加え、現在は観光農園業や温泉館・宿泊施設・給食調理場を運営しています。それらすべての部門で、さまざまな障がいがある方がた(現在40名)が、それぞれの能力を活かしながらいきいきと働いています。山口さんは、そこで働く障がい者の就労を支援しながら、施設の運営にも関わっています。
私も同じ法人で同じ福祉職ですが、山口さんと私の仕事は随分と異なります。詳しく話を聞いてみたいと思い、パルクラブを訪れました。
相馬:まずは山口さんのお仕事、具体的に教えてもらえますか。
山口:パルクラブ敷地内の洋食レストランで勤務しています。入社5年目で、職種は「就労支援員」です。レストラン業務全般とそこで働く従業員さん4名の就労及び生活支援に携わっています。
山口さんが働くレストラン「石窯ダイニングfuu」
相馬:レストラン業務では具体的にどのようなことをするのですか。
山口:一般的な飲食店と全く同じです。メニュー開発から、調理・フロア業務・POPづくりなど、日々のお店の運営に関わることをしています。調理は、例えばハンバーグのタネづくりから行っています。
相馬:メニューの開発って、どんなことをするのですか。
山口:地域の特色と季節を意識し、パルクラブらしさを表現することを意識しています。パルクラブ内に農業生産部があるので、そこでつくっている野菜からアイデアを得ることもあれば、逆に「こういうメニューをつくりたいからこの野菜をつくって!」とお願いすることも多々あります。
レストラン営業の合間で、生産部門が栽培した野菜の収穫へ出向く山口さん。このように常に新鮮な食材が使用できるのも、ここの良さだと話してくれました。
人気の手ごねハンバーグと自家製ピザ
相馬:パルクラブで働くことになったきっかけを教えてください。
山口:幼い頃から、障がいの有無で差別する場面を見かけると違和感を抱いていました。そしていつしか、障がいのある人もあたり前に社会で活躍する世界になったらいいなぁと思うようになり、大学ではスポーツと福祉を専攻しました。就職活動期に、大学の就職説明会で博愛会の取組を知り、「私が思っていたことをすでに実践している。私がめざすのはこれだ!」と思いエントリーし、今に至ります。
相馬:「これだ!と思った」部分を詳しく教えてください。
山口:就労支援といっても、いろんな形があると思います。学生時代、実習やボランティアに参加するなかで、利用者さんが箱折作業をしている姿を良く見ました。それ自体はとても良い事なのですが、ほかにもいろいろな作業があればいいのになぁと感じていました。
私が現在働いているレストランには4名の従業員さんがいます。私は就労支援員として、彼らの就労や生活面の支援を行っています。しかし彼らはこのお店の「従業員」であり、それぞれが接客などの重要な業務を担っています。店内でいきいきと働く彼らの姿を見ていると、「障害の有無に関わらず誰もがあたり前に社会で活躍する世界」に近づいている実感が湧き、心の底から喜びを感じます。彼らなしにこのお店は運営できません。
レストラン営業終了後は、従業員さんの接客技術向上のための練習につき合うことも。
相馬:お店にはどのくらいの来客がありますか。
山口:平日はまちまちですが、週末は1日平均80人程度です。テレビなどでご紹介いただけると反響は大きく、100人を超えることも珍しくありません。
相馬:お店での営業以外にも、法人内の行事や地域のお祭りでも出店し、商品販売を行うことがあるようですね。
山口:はい。年間いくつかのイベントに参加しています。例えば、竹田市の秋の風物詩「竹楽」というイベントには毎年参加しています。竹楽は、城下町竹田の各所に設置された2万本を超える竹灯の美しさが有名で、これに魅了され毎年多く観光客が訪れます。会場内の地元生産者が集う「地産地消村」というブースがあり、そこでパルクラブで生産した野菜やお肉の加工製品を調理・販売します。前回も大好評でした。このように、地域のイベントに参加することで、地元の方との繋がりも広がっています。
「竹楽」出店時の様子
相馬:仕事で難しさを感じることややりがいについて、教えてください。
山口:レストランの運営と支援の両立でしょうか。お店の運営を考えながら、同時に従業員さんの支援も行っているので毎日慌ただしくなかなか大変ですが、そこにやりがいも感じています。従業員さんがその能力を活かし気持ちよく働けるような環境づくりを常に心がけています。
相馬:プライベートに関しておうかがいします。ご趣味は、学生時代から続けているバレーボールだそうですが。
山口:バレーは、小学生の頃からつづけています。現在は竹田市のチームに所属しています。今日も退社後は練習に参加予定です。勤務中は仕事に集中し、仕事が終わると自然と頭のなかはバレーのことに切り替わる。バレーをやっているからこそ、仕事とプライベートのバランスが取れている気がします。
相馬:就職するまで、縁もゆかりもなかった大分県、久住高原での生活。慣れないところでの暮らしはいろいろ大変ではありませんか。
山口:確かに、故郷や大学時代暮らした土地と比較すると、多少の不便が無いわけではありません。しかし、自然豊かなこの場所での生活に、不思議なもので自然と馴染んでいきました。今ではここでの暮らしが気に入っています。
自然豊かな久住高原
インタビュー後記
今回山口さんの職場に訪問し、お話を聞くなかで、同じ福祉業界で働く私自身「福祉の職場」のイメージが大きく変わりました。(いや、「広がった」と表現したほうが正確でしょうか。)
山口さんはこの地で仲間と共に、かねてより思い描いていた夢「障がいのある人も当たり前に社会で活躍する世界の実現」をめざして、まず「多様性ある職場」を実践し、それを日々さらに進化させています。
社会を変える、その一歩を山口さんは福祉のお仕事を通じて実現させている。「福祉って、とってもクリエイティブ」。そう感じたある日の午後でした。
相馬陽加
大分県社会福祉法人 博愛会 相談支援事業所ランプ
大学では哲学を専攻。学生当時、福祉業界で働く自分を想像すらしていませんでした。卒業後行政機関で勤務。とある社会福祉法人のイベントに参加し、知らなかった福祉の可能性とその世界の豊かさに心動かされ転職。福祉の現場へ。
入所施設の生活支援員を経て、現在は相談支援専門員として勤務。趣味は、読書と旅。「暮らすように旅をする」をテーマに、旅先をカメラ片手にひとり散歩するのが好き。
「福祉のお仕事」とは、人びとの暮らしと共にあるもの。だからこそその活動の幅は広く、クリエイティブで、多くの人やその地域に貢献できる仕事です。少しでもその魅力をお伝えできたら、という思いで執筆させていただいています。
社会福祉法人 博愛会 ホームページ https://hakuai-oita.com/
大学では哲学を専攻。学生当時、福祉業界で働く自分を想像すらしていませんでした。卒業後行政機関で勤務。とある社会福祉法人のイベントに参加し、知らなかった福祉の可能性とその世界の豊かさに心動かされ転職。福祉の現場へ。
入所施設の生活支援員を経て、現在は相談支援専門員として勤務。趣味は、読書と旅。「暮らすように旅をする」をテーマに、旅先をカメラ片手にひとり散歩するのが好き。
「福祉のお仕事」とは、人びとの暮らしと共にあるもの。だからこそその活動の幅は広く、クリエイティブで、多くの人やその地域に貢献できる仕事です。少しでもその魅力をお伝えできたら、という思いで執筆させていただいています。
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